バロック・文芸データ

結晶の声

*ゲーム画面からの引用です。筆写間違い、著作権どちらもご容赦

いかにも二次創作してくださいっといったような内容が並ぶ。この内容だと、まるっきり地球のようで、近未来、突如として神が姿を現したということになる。でもそれって神と言えるのか?という根源的な疑問が湧くし、神だという認定はいかにしてなされたのか、神だと認められたとしたらマルクト教団なんか地球上に存在している隙はないだろう、といったような連想も働く。まあゲームの設定を深く気にしても仕方ないんだが(笑)。気になるのはちらちら姿を現す〈翼の少女〉。赤い瞳で少女の声じゃないって……上級天使は女装して歪みをばらまいていたのか?……


自分
喪失感…
眠り…
…神経塔。

心の欠片…
そして…失われた半身。

この結晶は…
今まで見てきたどのバロックとも違う。
奇妙な感じがする…。
これは、なんだ?

彼とよく似た人物を、
私は知っている気がする…。

たくさんの人影が見えるが…
そのどれもが、同じ顔をしている。
この記憶は…どこかで…。

…色濃く残る、近しい者の影。
妄想と現実が混ざり合ったような
不安定なカタチをしているが、
これはバロックによるものなのかどうか…

ヒトではない存在…。
強い光の中で
直視することができない何か…。

世界を狂わせた、世界の一部…。
それは、君のことだ。


コリエル
知識…
守護…
…聖域。

崇拝と探究…
そして…世界の歪み。

鳴り止まない警報…
目前で絶たれた望みと…
世界を覆う、ただ真っ白な…光。

…実に興味深い。
彼らは、世界の根源ともいえる存在への
接触を試みたのではないか?
そう、例えば…
あの神経塔の奥で…。

この結晶のカタチからは、
真理を求める情熱が透けて見えるようだ…。
果たして近づくことはできたのか、
どうか…。

捧げつづけた祈り。
奇跡など、望んで起こせるものではない。
彼らは、それでも構わなかった。

歪みの根源…世界という言葉…。
この核は、厳密には歪みではない。
未分化のバロック…とでも言うべきか。

彼らは、ただ知りたかっただけだ。
それがこんな結果を招くとは
予想もしなかっただろう。
…運命とは、皮肉なものだな。

運命を受け入れた魂…。
それはある意味純粋で、
時に愚かでもある。

真理を求めたがゆえに身を滅ぼした作家が
いる、と聞いたことがある。
もっとも…彼らの場合、
神の怒りに触れた訳ではなさそうだが。

神の領域を侵そうとした人間と、
ヒトの世にただ姿を現しただけの神…か。
果たして、どちらが罪深いのだろうな。


箱の者
憐れみ…
離別…
…からっぽの箱。

妄想の揺らぎ…
求めたものと、掴み取れなかったもの…。

目の前で歪んでいく少女。
箱の中に閉じ込めたモノ。
彼が手にかけたものはなんだったんだ…?

…巨大な研究施設…。
何かの技術者として、
彼は必死に働いていたようだ。
心に巣食う何かから逃れるために…。

妄想にすがらなければ、
生きていくことすらままならない…。
しかし彼は、バロックになりきれずに
妄想と現実の狭間であがいていたのだろう。

不死のバロックには慣れているが、
こいつは再生のバロックか。
出会ったことがない訳ではないが、
見果てぬ妄想だな…。

感覚球で転送された娘か…。
……いずれにしても
今となっては、終わったことだ。

彼の箱に何が入っていたのか?
パンドラの箱には、
災いと希望が入っていたらしいが、
からっぽの箱もあるさ、世の中には。


首の者
…なんだ、これは?
ただ繰り返されるだけの、
単調な言葉が聞こえてくる…
見事なバロックだ、としかいいようがない。

聞こえてくるのは…
強い後悔と、生への執着。
その繰り返しだ。

彼は、何かの研究を行っていたようだが、
詳細まで読み取るのは容易ではないな。
歪みに邪魔されて見ることができない…。

こんな強いバロックを抱えていたのでは、
歪んでしまった後も辛かっただろう…。
大したものだよ…いろいろな意味でな。

己の罪から目を逸らすかのように
彼の首は伸び…
死を欲するほどに、
身体は肥大化していった。

赤の…女王…とは、なんだ?
私には見えない…歪みが大きすぎる…

こんな歪みを手にしても、
君には何の変化もない。
つまり君は、それ以上に重いバロックを
抱えているということか…。

バロック…。
それは死に至る病であり、
ひとつの答えともなりうるものだ。
……。
…わからないか。
そうだろうな。
私にもわからないんだからな…。


角女
閉塞感と…同一化…。
…いや、もしかして、このバロックは…
この少女は、どこかで…。

最初は遊び…
からかいと悪戯…
そして、声にならない呟き…。

学校帰り…
廃墟の片隅に佇む、浮いた瞳の少女…。

…この結晶からは、
明確な言葉を読み取ることが難しい。
バロックとしてのカタチに
揺らぎはないのだが…。

少女の手のひらに包み込まれた仮想現実。
目の前の喧噪から切り離された、
居心地のいい世界…。

顔のない友人たち…。
だから少女も素直になれた。
そこにいたのは誰でもない
誰にでもなれる真っ白な、誰か。

薄れ、消えていく自我…。
やがて彼女は、
自分でいることをやめてしまった…。
誰かでいる間は、傷つくことはない…。

自分を守るために、
あえて己を放棄した少女…
なるほど…
これは、あの時の少女だったのか…。
私のバロックがここまで育つとは…な。


袋の者
情報…
父親…
ごうごうと渦巻く、記憶の奔流…。

隠蔽と拘束…
引きはなされた痛み…。

暗く揺れる影…。
それが許されないことであると、
彼女は知っていた。

五感から流れ込む情報を、
何ひとつ忘れることはなく。
苦悩も喜びも鮮やかなまま。

膨れあがる記憶の袋。
ただひとつの思いを、
どこかに置き去りにするために…。

際限なく蓄積される情報…。
だが、どんなに知識を詰め込んでも
思いから逃れることなどできなかった…。

彼女のなかでは、
混乱も絶望も色褪せることがない。
何度も繰返し鮮明に再生され、
その度に彼女は……。

この結晶のなかには、
ふたつのバロックが存在している…。
もうこれ以上、彼女の心に
何かが刻まれることはない。


天使虫リトル
……ッ!
…痛み?
バロックではないのか?
これは、いったい何の結晶なんだ?

この異質な存在感は…
ヒトのバロックではありえない。
まさかこれは…神の一部なのか?

これは、ヒトでたとえるなら
苦痛のカタチそのもの…なのだろうな。
すまないが、
今はこれくらいしか言葉が見つからない。

…異常なまでに純度の高い痛み。
この状態で世界に存在するなど
到底信じられないことだが…。
そもそも、この核は…バロックではない。

この結晶が、高純度の苦痛であることは
間違いない。
しかし、想いも浄化されたのか…
触れた者への影響力は、高くはなさそうだ。

この結晶からは、背景にあるものを
読み取ることができない…。
いや…そういったものがあったことさえ、
不明瞭だ。

何か…ヒトではない存在へと通じる
糸口のようなものが見える…。
だが、これ以上は近づけそうにない。
私としたことが…すまない。

苦痛。
この結晶からは、
それ以外の要素は一切感じられない。
…ひどく純粋な、痛みだ。


マジシャン(魔術師)
絶望…
祈り…
…慈悲なき現実。

自分を慕う者たち…
守るべくモノ…
そして…避けられない歪み。

彼は…
歪んだ世界にありながら、
まっすぐに生きようとしていたようだな。

…信じていたもの。
…救えなかった者たち。
優しさゆえに彼の心は脆く、
その重みに耐えることができなかった。

理想だけを追っていた彼が、
初めて直視した現実。
歪み汚れ荒れ果てた世界。
だから涙は流さなかった。

己の中に世界と同じ歪みを見出した時、
彼は自ら望んで深淵に触れ…
そして、堕ちていった。
翼の少女の導くままに…。

彼が幼い頃に見た、悪夢の化身…。
過去と未来は融合し…
歪んだ世界の象徴として、それは蘇った。

己をバロックへと追いやった、最後の魔術。
だが…彼は少しだけ後悔している。
…あの時、泣いておけばよかったのかと。


ヨハンナ・キョン(女教皇)
神経塔…
歪んだ部屋…
…二人の少女。

奇跡…
封じられた力…
そして、小さな希望…。

神経塔の奥底…
閉ざされた部屋に横たわる、姉妹の姿…。

…窓のない部屋で手を伸ばす。
空を切り彷徨う、小さな両手…
手を取ったのは、静かに微笑む翼の少女…。

少しずつ歪んでいった。
彼女たちではなく、二人の周りの世界がだ。
まるで…目眩のように。

奇跡さえ起こせるはずだった姉妹…。
だが、彼女たちはその意志と裏腹に、
バロックを誘発する
異質な存在となっていった…。

制御しきれない巨大な力は
この世界の歪みを加速させた。
引き返すことも出来ただろうに…。

二人は最後まであきらめはしなかった。
だが、あの時の緩やかな目眩は
いつしか彼女たちを包み込んで…
跡形もなく、消えた。


ブルガー(女皇帝)
感覚球…
小さな翼…
…変異。

漠然とした不安…
信頼と…誰にも言えなかった苦悩。
問いかける青年の言葉…。

拒絶反応…
脳内に直接流れこむ、歪んだ情報…。

自分という情報が書き換えられる感覚…。
恐怖を感じる時間さえなく。

心の奥底に残った
小さな疑いを捨てきれなかったことが、
歪んでいくきっかけになったようだ…。

予測不可能な実験…。
歪む視界、融けるように変形していく体…
遠ざかるざわめき…ブラックアウト。

世界から放たれ、
すべてを侵食してゆくバロック…。
これは、彼女が自ら選んだ道だ。

歪みに潰えた、フラスコの中の恋。
だが…あの時信じてさえいれば、
違う結末があったのかも知れない。


アリエス(皇帝)
地位…
社会の歪み…
…暴力。

憤り…
失われた居場所…
そして…社会的な死。

長い時間をかけて築いたモノも、
崩れてしまうのは一瞬だった。
彼のささやかな幸福は、
音を立てて消えた。

やがて訪れた、終わりの日…。
彼は、それを受け入れることが
できなかったのだろう…。

すべてが光に包まれた時、
彼は差し伸べられた手を取った。
白い大きな翼を背負った…少女。

彼は世界から見捨てられ、
そして、解き放たれた。
少なくとも…彼のなかでは。

彼は己の支配する世界を手に入れた。
そこには…
条理も不条理も、望みさえもない。

己だけの世界を抱えて、
失くしたモノを再び築こうとしている。
だが、箱庭の支配者の苦悩は終わらない。
まるで、メビウスの輪だ。


フェストゥム(司祭)
積み上げられた書物…
密やかな実験…
…雑然とした研究室。

記憶と過去…
そして、未来への傾倒…。

異端者…。
彼には届くことのない言葉。
目の前の影でさえ、
彼の視界には入らない…。

長い研究生活の中で
彼の頭脳に蓄えられたたくさんの知識…。
今となっては、読み取ることは不可能だが。
残念だよ。

禁断の…知識。
それらと引き換えに
己の外界が失われつつあったことを、
その時の彼は知る由もなかった。

極度の探求心…。
それは妄想となり、人生を狂わせていった。
彼のものではない翼が、背後に見える…。

追放という制裁。
居場所を失った彼に残されたのは、
もはや何の価値もない紙きれだけ…。

ゆっくりと止まった、発条(ぜんまい)の時間。
そして彼は生まれ変わった。
記号と化した知識を閉じ込めただけの
物言わぬ機械として…。


ニクリとニクラ(恋人)
望み…
幸福…
…若き恋人たち。

変わっていく世界と…
変わることのない世界…。

…二人の視界は、同じように歪んでいった。
そこに、恐怖は感じられない。

淡くゆらめく視界…。
いつしか不変を誓うようになった頃、
彼らの瞳は…宙に浮いていた。

天使の羽根と…感覚球。
世界の外にちらつく、何者かの影…。
この異質な空気は、いったい…。

徐々に閉ざされていく、彼らだけの世界…。
歪みは彼らを平等に蝕んでいたが、
ある日、ひとつの変化が訪れる…。

互いを抱きあうことで、
彼らのバロックは完成した…。
そこにあったのは…
柔らかく、静かな微笑みだ。

永遠を望んだ恋人たち。
人間としての姿と引き換えに手にした、
千年の孤独…。
かくして、彼らの望みは叶えられた。


ガルガルタンクジョー(戦車)
図書館…
強迫観念…
…鍵。

黙示録を体現するもの…
そして、天使の言葉…。

滅亡への一歩…
銃口を向けた先、
動かなくなった友の姿が見える…。

脳に埋め込まれた…鍵。
それが彼のバロックの発端のようだ。

…ただ、じっとしていること。
鍵の目覚めを恐れた少年が
己に課した鎖のひとつだ。
世界を滅亡から守るために。

翼をつけた少女…
唯一、少年の鍵のことを知る存在…。
だが…
その低い呟きは、少女の声ではない…。

…背後に迫りくる、大熱波。
混乱のさなかでのまれていった少年。
己が既にヒトの姿でなかったことにさえ、
全く気づくことなく。

この世界に終末が訪れなかったように…
少年のバロックもまた、終末を知らない。
黙示録の鍵は、彼のなかで
今でも目覚めの時を待っている。


ライア(力)
激情…
孤独…
…抑圧された思い。

諸刃の刃。
垣間見えるのは…失われた心の欠片。

フラストレーション…
変性し、歪んでいく感情の渦…。

傷つけようとした訳ではない…。
彼女は、そういう方法しか知らなかった。

行き場を失くした叫び…。
ひとり残された彼女にできるのは、
己を傷つけることだけ…。
滲んだ視界の先には…微笑む翼の少女。

感情を、自分を憎み…
己であることを放棄するかのように、
彼女から感情が…
そして、体温が失われていった。

大熱波の光の中で
内と外は入れ替えられ、
彼女はその爪を己ではない誰かに向けた。

彼女の心に残された、人形の爪跡…。
激しいほどもろく壊れやすいんだ、ヒトは。
壊れてしまった方が、時には生きやすいな。


ジェィイロム(隠者)
花火…
ロケット…
…爆弾…
止められない連想。

無邪気で残酷な子供…
いつまでも覚めない夢…。

少年にとって、すべては遊びのようだ…。
生きることも…死ぬことでさえも。

ただ面白がっていただけだ…。
弾けた欠片の行方も、飛び散る火花も。

少年が見るのは、
テレビを通した外の世界…。
彼にとっての現実はどこか不鮮明で、
決して現実感を伴うものではなかった。

現実を侵食していく妄想…。
目前に広がる、淡い夢の続きが、
少年にとってのすべてだ
翼の少女の視線になど、気づきもしない…。

現実と空想の境界など、
この少年にとっては取るに足らないこと…。
結晶のなかから、無邪気な笑い声が
今も聞こえてくるようだ…。

現実と妄想が溶けあった世界で、
大熱波の日を迎えた少年…。
疾走する回転木馬は、止まらない。
彼は今も、妄想のなかに生きつづけている。


カトー(運命の輪)
不満…
ストレス…
息が詰まるような日常…。

残業…愚痴…居眠り…
そんな毎日の繰り返し。

無数の窓の中…
うごめく灰色の群集…。

退屈な日々…。
いつもの景色にいつもの小言、
ただ繰り返されるだけの毎日…。
すれ違う天使も、背景にすぎない…。

結晶のなかに散らばる、
複数の意識の欠片…。
これは…ひとりのバロックではない。

日常は、不幸な偶然により終わりを迎えた。
あらゆる理は書き換えられ、
歪んでしまった。
それは…彼らも例外ではなかった。

泡のような小さな歪み…。
あらゆる場所に生まれ、弾け
消えていくだけの…。
それを拾い上げたのは、ただの偶然だ。

逆転する歯車は、
がやがやとざわめきながに回りつづける…。
まったく…きりがないな…。


ソコンポ(道化)
歓声…
期待…
…終わりの見えない未来。

道化師の仮面…
そして、素顔…。

止められない時間…
駆け抜けた景色と、置いてきたもの…。

ステージ上での、輝かしい姿が見える…。
だが、彼の素顔を知る者は、
誰ひとりとしていなかったようだな。

夢の中でさえ、遠く聞こえる拍手と歓声…。
客席にぽつんと座る翼の少女の輪郭が、
目の奥に焼きついて、離れない…。

他者の期待に応えるための仮面…。
彼はずっと、そうして生きてきた。
いつからか仮面の下に何もなくなって
いたことを、彼は知りもしない。

ふと鏡をのぞいた時、
そこに見えたのは何だったのだろう。
彼が失くしたモノの代償に
映っていたものは…?

彼の仮面は、いつしか素顔へと転じた。
未来を拒絶し、
時を止めることで手に入れたバロック
迷走ピエロという名の、素顔の仮面だ。


ハングワンズ(刑死者)
苦しみ…
憎悪…
消えない傷跡…。

白い翼…
神を護る力…
そして…理想と現実。

暗闇の中…
フェイクの翼が、一縷の望みだった。

背中の白い偽翼と、まとわりつく肉の鎖。
地に繋がれて見る空の夢。
相容れないジレンマだ。
…しょせん偽物の翼なのだがな…。

昔と同じ…いや、それ以上の苦しみ…。
彼は小さな手を赤く染めて、
飛び立てずに空を舞い落ちていった…。

死を拒絶するバロック…。
息をしていない彼の視界に映るのは…
赤い瞳の…翼の少女。

結晶になった今でも、
脅えて小さく震えている…。
歪んでしまってもなお、繋がれたままか。

終わることのない苦悩…。
彼にとってのバロックは、
決して気休めの救済などではない
己を罰するための、螺旋の鉤だ。


デス(死神)
空のまま埋められた棺…
満たされない器…
冷たい鉄の定規…。

動かない心。
そっと息をするように静かに
歪みを消していくだけの。
ああ…それを仕事にしている連中もいたな。

意識化でのせめぎあい…
複数の意識の欠片…。

この違和感はなんだ…?
殻の中には、何も入っていないようだ。

何もないはずの空白…
結晶に満ちるのは、無意識からの使者…。
翼の少女が、手を差し伸べている…

抹殺、消滅、削除。削除。削除。
大熱波に包まれた時、
ねじれていく自分の姿が見えただろうか。

あの日…
失うと同時に手に入れたものがある。
彼がそれを受け入れたかどうかは
別の話だがね。

彼はもう、どこにもいない。
ここにあるのは固い器だけ。
それが彼の残した、ただひとつのモノ…。
虚無の埋葬が、彼のバロックだ。


ハナニップ(節制)
厳格な家…
自由…
…暴走族の仲間。

不満…
旅立つことへの不安と…期待。

目的も希望もなく…
ただなんとなく過ぎていく、空虚な日々。

彼は…自由を求め、旅に出た。
だが…彼を迎えたのは
あまりにも深い、底なしの自由…。

いつまでも明けることのない夜…。
静かすぎる街の片隅に、
天使の羽根が落ちている…。

このまま消えても誰も自分を覚えていない。
世界は自分を忘れていく…。
心の底にこびりつく、かすかな怖れ…。

他者の目を通して見る、自分という存在…。
ひとりの街と、己ではない他人が
彼を歪ませていった…。

轟音を響かせて走る、円環の囚人。
だが…本当は、帰りたかったのだ。
まったく…不器用な男だ。


グリロ(悪魔)
大きな家…
ひとりきりの部屋…
…衝動的な盗癖。

失われた視力と…
…眼球に植えられた感覚球。

見えないものが見える眼…。
彼が見ている世界は、誰とも違っていた…。

少年は、貧しかった訳ではない。
ただ…やめることができなかった。
そこに悪意は感じられない。

物事の境界線のズレ…。
少年のバロックとしての素養は、
ここにあったように思われる…。

ひとつの映像が、
結晶のなかに残されている…。
おぼろげではあるが、翼の少女のようだ。
彼女にまとわりつく違和感は、いったい…。

この少年は…
触れてはならないものに触れてしまった。
幻のように掻き消えていく天使の羽根…
情報の渦が、彼の意識を奪う…。

歪みに手を伸ばした、プリズムコレクター。
彼は、何ひとつ変わらない。
己がすでに人の姿でないことにも気づかず。
これまでも…そして、これからも。


ブブゲル(塔)
写真…
鏡…
わずかにずれた世界…

切り取られた時間…
そして、現実を映し出す鏡…。

レンズからのぞく世界…。
彼はただ、彼の見る世界を見ていた。

たくさんの写真にまぎれた、白い羽根…。
しかし彼が、
その存在に気づくことはなかった…。

現実を写さない写真…。
彼に異変が起きはじめたのは、
ちょうどこの頃だ。

いつしか…彼の世界から己が消えていった。
鏡でさえも、彼を映すことはなかった…。

無造作にちらばった写真…。そこにはただ、
普段と変わらない風景が写っている。
それが、彼のバロックだったからだ。

映し見のバロック……とでも呼んでおこうか。
ファインダーの中に己の姿が見えることなど
ありはしないのにな。


セブンティーン(星)
不安定な感情…
涙…
…不器用な言葉。

にこやかにさざめきながら…
けれども、どこか冷めた心。

涙を振り払うように、
何かから逃れるかのように、
ただまっすぐに走る少女の姿が見える…。

大人になりきれない心から、
懸命に背伸びするアンバランス。
そうやって手に入れた…彼女のバロック。

視線の先にあるのは、少女の後ろ姿…。
その背中には…翼。
何か、胸騒ぎがする…。

きれいな言葉だけを抱えて
どこへ行こうとしていたのだろう?
走りつづけていられるなら、
どこでもよかったのかも知れないが。

歪みを素直に受け入れてしまう心…か。
結晶となった今でも、
その在り方に変わりはないようだ。

がんばれ。がんばれ。がんばれ。がんばれ。
……
届かないものを追いつづける、幼い夢。
永遠の青空が、彼女の頭上に広がっている。


ムーン(月)
香炉…ともしび…
呟かれる祈り…
…救いを求める人々。

期待…
前兆…目眩…
知らずにこぼれる、言葉…。

信者たちに囲まれた、ひとりの女性…
奇跡の体現者…。

手のひらに浮かんだ奇妙な文様。
聖痕。
スティグマのバロック。
…よくある話だ。

日を追うごとに鮮やかに、奇跡を語る舌。
人々はその時が来たのを確信した。
彼女だけが、己の真実を知っていた。

熱狂する声にかき消されて届かない、
彼女自身の言葉…。
ただひとり、彼女を見つめる翼の少女…
見透かすような、冷めた瞳で…。

言葉は彼女の元を離れ、
溜息でさえも神託となった…。

暗い水底へ降りていきながら、
遠ざかる祈りを聞いていた…。
人魚の真実は、もう語られることはない。


サン(太陽)
強い恐怖心…。
異常なまでの恐れが、
この結晶のなかに満ちている…。

穏やかな生活…
侵食するバロック…
…そして、友人の死。

閉めきられた部屋…
ひとりうずくまる少年の姿…。

外の世界の喧騒と…混沌とした心。
緩やかに歪みはじめていた世界に、
彼の安らげる場所などなかったようだ。

少年は…逃げ場を求めていた。
己を傷つけようとするものから逃れ、
時にはその対象を傷つけることで、
己を守っていたんだ。

歪みたくないという恐れが、
逆に彼を歪ませていった…。
頭に直接響くような声…
天使のような少女が、語りかけてくる…。

バロックの恐怖から逃れるためには、
己自身がバロックになってしまえばいい。
…それが、少年の辿り着いた結論だ。

やわらかな世界を望んだ少年…。
彼を守っているのは、針金の巣だ。


シン・モニス(審判)
依存…
喪失感…
…過ぎ去った時間。

色鮮やかな記憶…
モノクロームの未来…。

鮮烈な赤い残像が、
結晶の奥底にぽつりと残っている…。
彼女の時は、そこで止まった。

…幸せな記憶を映したかのように、
かつての姿のまま、過去に囚われる…。
心の中でだけなら、誰にでもあることだが。

過去への執着と、己の生への憎悪…
相容れない思い。
歪む彼女を解放したのは、ひとりの少女…
その背には…大きな翼。

ゆっくりと崩れていく身体…。
時と引き換えに手に入れたものは、
彼女が望んだものではなかった。

大切な記憶が失われることを…
それらが刻まれた己の心が消えることを、
彼女は恐れていた。
だが、もう、遅すぎた。

この結晶のなかには、
今も色のない風景が映しだされている…。
壊れた時計のようなバロックだ。


オル・ハガヌース(世界)
…随分と静かな結晶だな、これは。
満足しているのか…従順なのか。
中に何も入っていないのかもな…。

この結晶には…
何か、重要なものが欠けてしまっている…。
これはいったい、どういうことだ?

少女…
純白の翼…
彼女を取りまく奇妙なひずみ…。

何者かの視線を感じる…。
今この時でさえも、
誰かに見られているかのような…。
この奇妙な感覚は、何だ?

翼の少女と…
その影に潜む、まったく別の存在…。
だが、それが何を示すのかまでは
読み取れそうにない。

この結晶をみていると…
まるで胸騒ぎのように、
バロックたちがざわめきだすんだ。
恐らくは、ここからすべてが始まった…
そんな気がする。

この結晶に残された、ひとつの糸口…。
だが、それを辿るほどにノイズは強まり…
その先にあるものを、見ることができない。
そこには、いったい何があるのだろうか…。

主不在の、世界を閉じ込めた鳥かご。
神でもヒトでもない、この虚ろなカタチは、
何を示しているのだろうか…?


コクトーヘッド(愚者)
静寂…
やわらかく、温かな緑。
…硝子の温室。

逆転した世界…
ふたつをつないでいた糸…。

無知という知…。
ある意味において彼は純粋で、
そして愚かだった。

彼は、外の世界を知ることなく
歪んでいった…。
恐れも疑問もなく、ただ、静かに…。

何者にもしばられないバロック…。
ゆったりと彼を包む世界の中で、
ひとつだけ…異質な存在があった。

堅く閉ざした扉の向こうから、
彼を呼ぶ声が聞こえる…。
扉に背を向けた視線の先…
翼をつけた人影が揺らいで消える…。

ある時…彼の内と外が逆転する。
無駄な情報のあふれる乱雑な世界を
すべて檻の中に閉じ込め…
彼は、彼の妄想に消えていった。

彼は人知れず歪み、楽園の住人と化した…。
しかし、記憶されない物語は、
初めから存在しないのと同じだ。
それが彼の望みなのかも知れないが…。


グルー(汚物)
これはまた、変わったものを持ってきたな。
一個人のバロックではない、
言葉が擬似的に結晶化したものとは…。
まあ、いい。せっかくだから、
私が言葉を引き出してやろう。

部長はうるせぇし、部下は使えねぇし!
俺にどうしろっつーんだよおぉぉぉ!

昨日も今日も明日も残業、
休日出社は当たり前。
俺の未来は今いずこ…?

新人育てるのも仕事です。
だけど、その間にも仕事は溜まってく。
どうすりゃいいのさこのジレンマ。

こんなムサい部署でやってられるか!
俺の青春を返しやがれってんだ!

毎日毎日午前様って
ぶっちゃけ、ありえねぇよな!

…俺にボーナスをください…。

…俺に休みをください…。

今日こそ、今日こそは…
にっくき部長の光る頭にデコピンを!
……
……
…と、思いつづけてはや3年。

昨日は部下の尻拭い、
今日は部長のご機嫌取り。
俺、これだけで給料もらってるんだよね、
って思えば少しは気がらくに…
いや、むしろ空しい気分だ…。

明日までにやっといてくれ、
…って簡単に言うけどさあ、
できるわけねぇじゃんか!
…これが中間管理職の悩み、というやつか。

あれもこれもそれも代わりに頼むよ~。
ハァ…。
俺は、いつから部長のゴーストに
なったんだろう…。

俺は、見てしまった。
部長が昨日、
ヨダレ垂らしながら居眠りしていたのを…。

部下のミスは俺のミス、
俺のミスは俺のミス。
もちろん、それはわかってる。
しかし、
部長のミスが俺のミスとはこれいかに。

今日も部長にしぼられた、
かわいそうな俺…。
おまえら、朝まで付き合えよ!

この会社を辞めたところで、
独立する金も度胸もなし。
…………。
俺って負け組…?

早く来て遅くまで残業してる俺って、
バカがつくほど、マ・ジ・メ。
誰もほめてくれねぇけどな

あの部長がいたことで
何かうまくいったことは、ひとつもない。
給料ばかり山ほどもらいやがって、
会社の金喰い虫め!

またこの結晶か…。
毎日のように会議会議会議会議。
何も決まらないのに明日も会議。
マジで、謎の会議。

はっきり言ってやる。
……。
部長の前では言えねぇけど!

未来がみえる…。
俺たち下っ端が過労死してる
未来がみえる…。

未来がみえる…。
俺たち下っ端の給料が下落してる
未来がみえる…。

未来がみえる…。
にっくき部長の給料が上がってる
未来がみえる…。
ちくしょう…。

曇りの日ってあれだよな。
薄暗くてなんかユーウツ。
ユーウツって字、書ける?

風の日って困るよな。
みんな飛んでっちまえばいいのにって
考えてるだけで仕事になんねぇ。

雪の日って寒いからさぁ、
こたつで丸くなっていたいよな。

晴れの日ってさぁ、
以下略。

晴れの日っていいよな。
ばりばり仕事するぞーってカンジ?


マナス(棍棒)
流しこまれる力…
無関心…
…静寂の中、ペンだけが走る音。

そこにあるはずなのにないもの…
見えていないもの。

お互いの名前さえ知らない、
不自然に統制された閉鎖空間…。

小さな箱庭の中で消費されていく、
たくさんの時間…。
誰一人、立ち止まる者はいない。

互いを意識することもなく、
だが、彼らは同じ眼をしている。
ただ与えられた役割をこなすだけだ。

他者は存在しないのも同じか…。
徹底した無関心ぶりだ。
己にすら、興味がないのかも知れないな。

止まった時間…長い空白。
異形にさえなりきれなかった存在…。
これは、死者から流出した情報なのか…?

…恐ろしいほど静かな、鏡の迷宮。
だが、少しも狂いがないように見えて、
やはりどこかが歪んでいるんだ…。


ペリソマタ(杯)
十字路…
繰り返す赤と黄と青…
…気まぐれな心。

希薄な関係…
あやふやな境界線…。

人のいない街に、
取り残された少女の影…。

姿を変えていく住人たち…。
だが、無関心な彼女は
いつものように夜の街を歩く…。

いつか…どこかで見たような光景。
何かが少しずつすり替えられ…
気づかぬうちに変わっていった。

翼を付けた少女が、こちらを見ている…。
だが、少女の方を見ることが…いや、
うまく認識することさえできない…。

街の住人たちの意識の欠片…。
背景に見えるのは、一度は閉ざされた視界…
冷たく、色を失くした街だ。

ひとり取り残され、消えていった少女…。
盗まれた影は、もう帰らない。
それとも…
すべてが彼女のバロックなのか…。


マレフィキア(剣)
エントロピーの増大…
災い…
…残された思い。

無数の集まり…
世界に散らばった情報…。

歪みの細かな欠片、といったことろか。
個人の意識や存在は、既に失われている。

これほど断片化の進んだ情報が、
ひとつのカタチを成すとは…。
まぁ、こんな世の中だからな。

この結晶には確たるカタチがない…。
見る者のイメージを返すだけだ。

死に逝く者たちの残留思念の集合体…
といえば、わかりやすいかも知れないな。
個々は、ごく小さな揺らぎでしかない。

彼らは大熱波の中で生まれた。
本来なら、消えていくはずだった存在…。
それらがカタチを得て、姿を現した。

消えていくはずだった、寄せ集めの…
名もなきおぼろげなバロック…。
……。
ああ、見えているのは私か。


タブラ・スマラグディナ(硬貨)
占星術…
二面性…
優秀な弟子たち…。

ヴィジョンに浮かぶ憂い…
そして、裏切り…。

現在と未来の交錯…。
崩れ歪んでいく世界…。

夢で見た未来の姿…。
確信は恐れへと変わり、
ひとりの心を支配した…。

人の救済と……支配。
うまく特定はできないが…
これらの狭間で堕落していった、
意識の欠片が見える。

…人を導ける才を持ちながら、
欲望からは逃れられなかった魂。
それの揺らぎが、
バロックのきっかけとなったのだろう。

…彼女たちは一度、
命を落としているようだ。
それが何故、
今ごろ歪みとして姿を現したのだろうか…?

肉体が消滅してもなお
消えることのない歪み…。
だが、夢で見た未来も終わりを迎えた。
終焉を祝福する鐘というバロックのもとに。