バロック・文芸データ

特殊用語

異形 敵キャラのこと。ゲーム内では「いけい」とも「いぎょう」とも呼んでいる。物語からすると、これは通常の人間が苛烈な妄想によって歪んだ姿だということになる。従って、さまざまなリストを埋めるために、ゲームクリア後も異形を殺し続けることは、きわめて残虐だということになるだろう(苦笑)。取説には、〈人としての意識は残っておらず、もはや意志の疎通は不可能である〉という、異形を倒すためのエクスキューズか記されているが、バロック屋がそのイデアセフィロス(魂魄)を読み取ることによって、人間性のかけらが残されていることがあらわになるため、いかなるエクスキューズも虚しい。一方、クリアさえしていなければ、主人公はいくらでも世界をやり直せるため、異形を倒したこともすべて無効化される。これはある意味で、ゲームの比喩であり、作品構造そのものが非常にメタ的であることを明らかにしている。なお、異形にはタロットカードにちなんだ名前が付けられているが、容姿までがそうだというわけではない。造形には遊び心が感じられて秀逸。
イデアセフィロス 核とか結晶とも呼ばれる。「きれいな水」というのも隠語的な呼び名の一つ。イデアとは、プラトンのイデア論から採られたものであろう。イデアとは真実在、本質的な意味での実体のことで、現代ではプラトンのイデア論を離れて、〈非在の理想的事物〉の意味に使われることも多い。イデアの現実界への投影がこの世の事物・現象である。セフィロスとはユダヤ教神秘主義におけるセフィロトのことであり、神に由来する10の真理を示す。イデア論の発展が、すべての現象は唯一の真実在である神から流れ出たものだという流出説であり、セフィロトの思想も流出説の一つである。セフィロトとはいわば神の属性のイデア、人間の魂にとって重要と思われるもののイデアである。だからイデアセフィロスという言葉は、同義語を重ねた言葉とも言える。イデアセフィロスは、神の流出結果としての魂ということを示しているのである(なんちゃって)。
感覚球 事物の転移装置。情報ももちろん送れる。外界にある感覚球の一つに物を投げ入れると、もう一つの感覚球から出てくる。感覚球には通常人間は入ることができず、入ったとしても歪んでしまうのだが(その例が袋の者である)、主人公は歪まないで出入りできる。もともと歪みきっているからだ、という説もないではない。感覚球と融合した心読みの者は、何でも知ることができるらしい。神の眼を共有するのは確かに人間には残酷な話だ。感覚球に突き刺さっている上級天使は、死にこそしないが、情報が無制限というわけではないようだ。感覚球の場所などは、構造を参照。
偽翼 これをつけていることはマルクト教団の一員であることのしるし。マルクト教団の団員は天使を名乗るが、天使の翼を持ち合わせないので、これをつけて天使であることを示そうとするのである。はかない虚栄。翼が大きければ大きいほど偉い、というのも虚栄の極み。確かにそれなりの効力はあるけれども。自分は、つけていると目障りなので、なるべくつけないようにしている。
浄化 敵キャラを殺すこと。浄化はファンタジー・伝奇的には悪しきものを浄めるという意味で使われ、悪霊の消滅、迷える霊の昇天などに使われる言葉。この話では、人々は肉体そのものが歪んでしまっており、その肉体を滅ぼして、存在の核とも言うべき魂だけに返すのが主人公の使命である。浄化というのは殺戮を体よく言い換えた言葉に過ぎず、主人公の野蛮な行為を正当化するための欺瞞に満ちた言葉。神の場合は、剣では斃せないので、天使銃を用いて浄化する。
神経塔 その最下層に神を捕らえている地下何層にもわたるマルクト教団の中心的建物。ある意味では聖地であるが、異形の巣となっている。どうみてもこれはエヴァンゲリオンのイメージ。エヴァの影響は広く深く及んだが、この作品もその一つといえるだろう。
創造維持神 創造維持とも呼ばれる。世界を創造し、維持する神。つまり造物主。もともとは球体+翼だったのに、主人公と融合したために女性の姿となり、分身としてアリスとイライザを生み出した。マルクト教団は、どうした経緯でか、神を保護(捕獲?)することになり、神の研究をしている。そして天使を自称する。エンディングでは、主人公を神の六枚の翼が包み込むが、これはどちらかといえば、熾天使のイメージだ。熾天使は六枚の翼を持つ、最も高位の天使で、「聖なる、聖なる、聖なる万軍の主。主の栄光は、地をすべて覆う」と歌いながら神の玉座の周りを飛び続ける。もちろんこの元ネタとゲームは関係がない。キリスト教もユダヤ教も、エヴァ以後はファンタジーのお飾りとして気軽に使われるようになり、種々のイメージは頽落してしまった。
ダァバール計画 心読みの者によれば、ダァバールとはヘブライ語で「神が語った」という意味だそうだ。神と人間を融合させて人間の言葉を神に与え、神の真意を聞こうとする計画。計画したのはコリエルと呼ばれる人々で、上級天使に敵対する勢力である。主人公がこの融合役に選ばれ、一度は成功する。しかし、その後上級天使によって計画は頓挫させられる。
大熱波 5月14日に起きた世界の破滅。2032年と取説にはあるが、ゲーム内では年号の説明はない。主人公と創造維持神が融合した状態を、むりやりに引き離したために起きた悲劇。この影響は全世界を覆ったわけで、セカンドインパクトの比ではない。
天使 マルクト教団の教団員の自称。本物の天使ではない。上級天使がこの教団の指導者だが、神を護る天使であるところか、むしろ神の地位を奪おうとする簒奪者である。
天使銃 撃つとどんな異形も一発で斃せるとても強い武器。撃った後にはイデアセフィロスのかけらさえも残らない。そして、天使の羽が散る。この銃の機構については天導天使のせりふに詳しい。天使銃は、外界で上級天使に渡されるものだが、しょっているとうざったいので、異形に投げ当てたりして処分してしまう。神のいる最下層直前までくると、銃不所持の場合には、中級天使が銃を与えてくれるので、神を浄化しようとしているときにも問題はない。もちろんグリロに盗まれても気にすることはない。しかし、一定の局面では、天使銃を所持していないとゲームは進まないし、撃つことが必要なせりふやバロックも存在する。
肉と骨 「血と骨」ではない。全体に奇妙な世界観のゲームだが、ほかにも注入液、寄生虫、刑具など、マッドサイエンス風のアイテムだらけ。SFとファンタジーのアマルガムは、日本でいちばん発展したのではないか、という気がする。
マルクト教団 神を護ることを使命とする教団。科学者が教団の中心メンバーであり、神の研究をしている組織とも言える。マルクトとはユダヤ教神秘主義の10のセフィロトのうちの一つであり、聖霊を意味する。その象徴するところは、自分自身であり肉体である。精神面では献身を本分とする。従って、マルクト教団は、非常に正しく名づけられていると言えよう。上級天使の行動は、マルクト教団の本筋からは外れているのである。
融合 神との肉体的な合一。神秘主義においては、というよりも、現実の人間界では、神との合一は、肉体的なものではあり得ず、常に精神的なものである。もちろん生々しい肉体感覚を伴う「恍惚」の例は、神秘主義の歴史の上に跡を絶たない。とはいえ、あまりにも肉体的なものは、常に悪魔の技ではないかという疑惑にさらされ、そのままでは受け取られることがなかった。異端とされた例も数多い。このゲームでは残念ながら、その神との合一におけるめくるめく感覚は表現し得ていない……そんなものは誰も目指していないって(笑)。融合が、ただ神に向かってやみくもに突進するだけっていう設定からして(笑)。